- 建設機械向け油圧フィルタのトップ企業 未来を担う新素材の量産化技術を確立
- ヤマシンフィルタ株式会社
代表取締役社長 山崎 敦彦
社会の発展を支える各種建設機械は、さまざまなパーツで構成されている。なかでも過酷な環境下で使用される建機において、油圧フィルタの存在は重要な位置づけだ。ヤマシンフィルタ株式会社は、建機用の油圧フィルタを中核とするフィルタ専用メーカとして展開。革新的な技術力を生かし、社会の成長と共に躍進を続けてきた。「当社は1956年に山信工業株式会社として設立しました。創業時は醤油や味噌のろ布製造からスタートし、自動車関連フィルタの下請けへと移行したのです。しかし、請負業務の中では、自社の開発力を生かした製品づくりができず、事業を拡大することが見込めないため、建機用フィルタに業務を集約したのです」(山崎氏)
当時から世界中で油圧式建機が主流であり、国内でも外国製の油圧式建機は広く用いられていた。「建機用フィルタは限られたマーケットですが、日本でトップシェアを取れば、グローバルトップも見えてくると考えるようになったのです。そこでシェア拡大を図るため、より一層の品質向上に取り組みました」(山崎氏)
油圧ショベルをはじめ、ブルドーザーや超大型ホイールローダーなど、国内外で活躍する建設機械の新車向け純正品、定期的な交換時に使用されるアフターマーケットの両チャネルに製品を供給。現在では建機用フィルタの分野で国内シェア70%を誇るリーディングカンパニーへと成長を遂げた。
同社を成長へと導く原動力となったのが、高い開発力だ。「建機用油圧フィルタには、高温・高圧なオイルの高いろ過性度と強い耐久力が要求されます。フィルタの目を粗くすると長寿命ですが、ろ過精度が低下します。目を密にすると流れが悪く寿命が短くなります。求められるのは高いろ過性度、長寿命、小さな通過抵抗という相反する3条件です。当社はオイルを濾すときに使う『ろ材』を含め、自社で独自に研究・開発しています。その技術力で、細かいゴミをたくさん取って、サッと抜ける、バランスの優れたフィルタを作り上げているのです」(山崎氏)
フィルタへの要求は、建機メーカーの意向や各建機によって大きく異なるという。同社は、各メーカーのニーズに応え、約4年ごとにモデルチェンジする建機に合わせ、常に革新的な製品を生み出すための技術開発を続けている。「佐賀県の国内工場に加え、1989年にはフィリピン・セブ島にも製造拠点を開設しました。日本、アジア、北米、欧州の四極に展開するグローバルネットワークを構築しています」(山崎氏)
2005年には社名を現在のヤマシンフィルタ株式会社に変更。特化した事業分野を社名にも明確に冠した。同社は2014年に東証二部に上場し、2016年には東証第一部銘柄の指定を受けるなど、立ち止まることなく躍進を続けている。
グローバルな展開を推し進める同社が重要視しているのは、高品質な製品づくりを支えるための優れた人材だ。「とくに社員同士のコミュニケーションを重視しています。そこで、年に2回のグローバルマーケティングミーティングを開催し、世界各地から集まった社員がチーム力を付ける場として活用しています。高度な通信環境がある今でも、やはりFaceto Faceで一堂に会し、同じ空気を吸いながら考えることが大切なのです」(山崎氏)
さらに社員の能力やモチベーションを高める取り組みも実践している。「現地採用者の本社勤務や、本社勤務者の海外転勤などを積極的に行い、希望者の要望に応える環境を作っています。机の上で考えるのではなく、現場の風を受けることが大切なのです。職種にとらわれることなく、財務や経理の人材も海外で育成しています」(山崎氏)
優秀な人材が取り組む、高度な研究開発の中で、未来を担う新たな技術も誕生した。「繊維径150nm~10μmというナノレベルの繊維を独自の製法により量産化することに成功しました。当社の製品は、高空隙率、超比表面積効果、断熱効果、遮音効果、自己消火性(不燃性・難燃性)といった、革新的な機能特性を持っています。フィルタへの活用はもちろん、素材の特性を生かして、農業分野や航空機、更には再生医療等、応用範囲は全容が見通せないほど広がります」(山崎氏)
事業を専門分野に集約し、グローバルニッチの道を突き進んだ同社が、これまで培ってきた高い技術力で確立した新しい技術。フィルタというカテゴリーにとどまることなく、大きなイノベーションを秘めた未知の領域へと同社の挑戦は続いていく。
※「賢者の選択」より転載