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100年企業の総合商社が信頼を基に挑む
笑顔で満たす世界と未来の姿とは
野村貿易株式会社
代表取締役社長 宮下 勝成

国内外の強靱なネットワークで幅広い領域の魅力ある商品構成

旧野村財閥を起源に創業からまもなく100年を迎える野村貿易株式会社は、大きく移り変わる時代や社会とともに成長を続けてきた。
「当社は野村財閥創設者でもある二代目野村徳七によって1917年に創設されました。野村南洋事業部としてボルネオの農園を購入し、海外での事業をスタートしたのが起源です」(宮下氏)
 証券業者として成功を収めた野村徳七氏が、実業への進出として選んだのが海外事業だった。
「今から想像しても大変な決断が必要だったと思います。徳七はこれを『驀直進前(まくじくしんぜん)』の開拓者精神で推し進め、この事業を発展拡大させました。『驀直進前』とは、『周到な準備を整えたら、信じるところを迷わずまっすぐに前進せよ』という意味の禅語です。戦後の財閥解体を経て、貿易商社として再出発し、現在に至るまで、当社にはこのDNAが受け継がれています」(宮下氏)
同社は新たな分野の開拓に務め、幅広い領域の商品構成と、海外との強靱なネットワーク構築を作り上げてきた。現在は、フード、ライフ、インダストリー、国際事業部の3部門+1事業部を軸にしている。
「フード部門では畜産、水産、加工食品、農産、健康食品原料、ペットトリート、各種革製品などを扱っています。ライフ部門ではユニフォームやシャツなどを自社生産するなど、アパレル製品や寝装品製品を中心に展開しています。また、インダストリー部門では、鉱産品、化学品、スマートフォン等に使用するフレキシブル基盤材料・タッチパネル用の光学フィルム・太陽電池用の検査装置や工作機械など、幅広い分野の事業を取り扱っています」(宮下氏)

温泉熱を利用して生鮮野菜を生産
驀直進前の精神で新規事業を推進

同社は国内外のニーズに応えるとともに、先見的な視点から新たな需要を生み出しながら、バランスの取れた輸出入業務を展開。米国で水揚げされた海産物を中国で加工して、アジア各国で販売するなど、外国間貿易も積極的だ。また、国際事業部では、主に新興国向けにエネルギーや環境、インフラ整備に関わるビジネスを展開するとともに、国内でも
新たな事業領域を開拓している。
「北海道弟子屈町の協力を得て、温泉の熱を利用した温室で野菜栽培をスタートしました。『冬場の北海道には生鮮野菜が少ないので何とかしたい』という、野菜の好きな社員の情熱が込められた事業です。当社の起点でもあるアグリ事業はトライしたい分野のひとつでした。厳冬期にはマイナス20度に達する環境下でも、温泉熱を利用することでハウ
ス内はプラス17度を維持でき、雇用創出や地域振興にも貢献できます。そこで、野村北海道菜園株式会社を設立し、『驀直進前』の精神で新規事業に取り組んでいます」(宮下氏)
一時は暴風雪で温室が全壊したが、撤退することなく再チャレンジ。これを契機に地元との信頼関係も一層深まったという。現在では、ほうれん草やルッコラ、グリーンリーフなど「温泉そだち」の新鮮な野菜が安定的に収穫され、採算ベースに乗るまで成長している。

商社に大切な「人財」育成に注力
未来に向け新たな経営理念を構築

同社は、商社に大切なのはなによりも「人財」であるとし、社員教育にも注力している。 「さまざまな人財育成プログラムの中で、『海外トレーニー』という研修制度が
あります。これは、20歳代の社員から希望者を募り、3カ月から半年間、通常の実務を離れて海外拠点に滞在し、現地のマーケットや文化など幅広い見聞を広めるものです」(宮下氏)
研修を終えた社員は、人物としてひとまわり大きく成長し、業務に取り組む姿勢にも変化が見られるという。
同氏は経営理念の再構築にも取り組んだ。
「従来の経営理念はやや形骸化しており、ミッションも不明確でした。そこで、『笑顔で満たす世界と未来』をミッションに、社員・経営が『誠心誠意、共存共栄、驀直進前』から成り立つ当社のバリューを共有し、『世界に生きる』というビジョンに『未来を創る』を加えて、次世代のために事業を創ることを掲げました」(宮下氏)
「ミッション」「バリュー」「ビジョン」の3つの要素が記された新たな経営理念策定には約1年半の期間が費やされた。現在は経営理念を他言語訳した小冊子を社員全員が常に携帯し、判断の基準などに使っている。また、同社の真の姿や方針を示すものとして、海外の取引先にも好評だという。
同社は創業時から受け継がれる驀直進前の精神を胸に、変わりゆく時代や社会にも対応し続けることで、企業としての一層の存在価値を見いだしている。まもなく100年を超える企業として、今後も大きな発展が期待される。

※「賢者の選択」より転載

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